この三連休忙しなく、映画鑑賞に使える時間は3日間共午前中だけであるが、近所のシネコンでなんと全ての上映会で「完売」状態なのがこの作品だけで、なぜだろうと思っていたらモントリオールでグランプリを受賞したのを忘れていた。さらに、中国でも三冠に輝いたらしい。最近、映画周辺の話題には疎いが、だからといって鑑賞に尾鰭が付くわけではない(オスカーやカンヌだと厳しく観てしまうが・・・)。筆者が観た会も老人ホームの慰問試写会みたいだった。
一般的に納棺師(因みにこの師? 日本語的には士ではないの。もっとも資格とかがあるわけではないからどちらでも良いが・・・)という職業を「おくりびと」と呼んでいるのかは不明だが、もしそうでないとしたら、この機会に「おくりびと」っていう呼称の方が暖かみがあって良いと思う。そして、それくらい尊厳と誇りを持った人間がこの職業に就いて欲しいと思う。筆者の様な中途半端な人間には成られてはいけない。身内の不幸も含め今まで何度も葬儀というものを経験しているが、葬儀屋さんの対応というのは区々、特に決まったものは何もないが、ただ、いつも関心するのは一見淡々と仕事をしている様で、死者に対する労わりの心遣いは親戚以上だと思える節もある。特に財産を沢山残して亡くなった祖母や外伯父の時は本当にそう思った。だからこの作品に関しては、とにかく余計な予備知識や作品中の推測、また、カメラワークやカット割、及び、音楽・美術・効果なんかに関してもなるべく捉われることなく、物語に没頭しようと思った。結論として、そうしたことがこの作品の最も良い鑑賞であるということは言うまでもない。
日本の風土にある死者への崇敬というものは、たとえばカンヌで「楢山節考」が絶賛された様に、外国人にとっては可也稀有な風習だと思う。それは基督教文化圏だけでなく、同じ仏教圏に於いても、日本の様に、葬儀の後も初七日、七七法要(四十九日)、一回忌から始まり、三、七、十三、十七、三十三、三十七回忌までおこなって、やっと成仏が完成する。死んだときその場で神にしてしまう基督教とは相容れない風習であろう。しかし、一方でこちらも「メルキアデス・エストラーダの三度の埋葬」の様な埋葬方法も受け入れなれない。カナダで絶賛されたのは、そんな死者への崇敬の念は本来、文化や宗教を超えたところにある物だという一種の提言なのかも知れない。特に「死に化粧」というのは知っていたが、この作品で山崎と本木が行っている納棺の準備は、所謂「儀式」の類ではなく、死者への感謝と尊敬の現われであり、本来は死に水を取るのと同じ、身内の人間が行わなければならないことであったにもかかわらず、前半で余が言っているように「隙間産業」だというところに風刺も込められている。また、山形だから死者が自宅の畳の上に横たわっているが、都会(というか東京)では全く考えられないことだ。人ひとりの生命というものがどんなに尊いものかというのは、こういう機会でもなければ分かり得ないし、同時に都会にそういう「現場」がなくなって来ていることの影響による将来に多大なる不安を感じるのは筆者だけではない筈だ。
作品は時には失笑をかいつつも全般に静かに流れるが、前述した山崎と本木の所作が素晴らしく、この映像を観るだけでも価値ある鑑賞だ。勿論、その所作だけでなく、息のあったコンビネーションは見事。また、キャスティングも良く、特に吉行、杉本は、この俳優を使っているというだけでどういう役柄なのかが殆ど分かる辺りは見事であるし、広末もこの作品鑑賞の中では(年代でなく立場として)最も鑑賞者に近いところにあるという複雑かつ難しい役柄をうまくこなしていた。この作品では、一見特徴のない彼女の役柄が最も難しい。
そしてこの物語を単に「死」ということだけで捉えてはいけない。笹野が「門」言っていたように、それは終わりではなく、先祖として、我々の存在のルーツとして立場が変わるだけである。自己の存在を肯定するには先祖を否定しては成り立たない。そして同時にそれはある意味で美しい所作のある日本人の民俗としての誇りという観点から「生命の尊厳」を見ることの出来る、与えられた機会なのだとは思わないか。筆者は少なくともカナダ人や中国人より、この点に関して理解ができるということについては、日本人に生まれたことを感謝するのである。
実は採点が難しい作品だ。今年の邦画ではダントツなのだが、ここ数年の秀作だと「ゆれる」と比較すると少し・・・、だからA作品にはならないかな。昨日の「パコ」が筆者の中ではこけた分、満足している。
しかし、冒頭に書いたような老人ホーム状態で、鼻はかむわ、ビニールはゴソゴソ煩い、携帯は鳴るで、昨日の乳飲み子上映会と変わらない場内だった。
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by turtoone
| 2008-09-14 17:49
| 映画(あ行)