暫く療養と入院、更に手術をしまして映画ブログは更新を怠っておりました。作品は鑑賞してますので、徐々に復帰させていただきます。今後共、よろしくおねがいします。


by turtoone
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告発のとき

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映画における戦争をテーマにしたものは名作の確率が高い。筆者のビデオ・DVDライブラリーをみても、20%近くを占めているから、もしかしたらジャンル別に分けたら最もパーセンテージが高いかもしれない。しかし、一方で沈痛・悲痛な物、後味が悪いものも多い。勿論、戦争なんて良いものの訳はないが、例えば、同じ戦争でも中世とか、もっと前の時代が題材の作品に同様な後味が残るかというと、それは少し異質である。但し、それは現実感の問題なのではないかと今までは思っていた。平和呆けのこの国においても、第二次世界大戦の悲惨さは、祖父母や両親から伝えられ、語り継がれてきているし、ベトナム戦争時代に戦地に赴いているわけではないが、反戦運動や、わが国にも関連した学生運動が起こっていた事実に多少なりとも接触をしているからか、自分というものを軸に考えて、悪事だという判断と悲惨さの共感は心のどこかに潜んでいて、それが唯一、戦争に対する自身の良心だと思っていた。だが、この作品で分かったことは残念ながらそれは大いなる勘違いであるということだ。

ベトナム戦争を経て、アメリカの戦争に関する考え方も大きく変わった。これは核というものの存在かどうかは別として、戦いというのは、すべてにおいて強いものが勝つという構図を変えてしまったのが現代の戦争である。イラク戦争において、アメリカは勝った訳ではない。それは既にベトナムから始まっていた。世界の国々がこぞって「アメリカ」になりたがったら地球はどうなってしまう。そんな疑問も今はない、なぜなら、19世紀のイギリスを目指したアメリカと違って、今、世界は「アメリカ」なんか目指している国は、ちょっと勘違いをしている「中国」以外にはないからなのであろう。人間は100年かけて、少しだけその部分を学んだのかもしれない。そんなアメリカが21世紀になって、まだ、19世紀のイギリスを目指しているという部分の歪みがこの映画作品に出てくるイラク戦争兵士たちの世界に現れてしまうのである。そして、それは戦争につきものである「西武戦線異常なし」と同じ、大国の一部において、一兵卒の問題は何も「異常なし」という報告がなされるが如く、やはり全く変わっていない。同映画作品のエンディングが如何に本質を示し、変わることのない命題であり結論であることを、全ての戦争映画、及び、アメリカ兵の戦場の実際を物語っていることにも、改めて同作品は素晴らしいと思う。大いなる勘違いというのは、自身の戦争に関する体験云々でなく、人間社会が大きくなるが故に比例する国家と国民の非統一感とそれに対して何もすることができないという諦観な脱力感に他ならない。

トミー・リーとシャー子の共演は見事。この二人は本当に作品と共演者によって随分演技の質が変わってしまう俳優だ。しかし「依頼人」で対決したスーザン・サランドンと夫婦役だったが、スーザンの迫力があの作品ほど無かったのは残念だったが、役柄的に致し方なかったかもしれない。トミー・リー演じるハンクの元軍警察という役どころも一見すると単純に思えるが、物語が進むごとにそれが深くなりきめ細かな設定だということが分かってくる。アメリカの何かが崩壊していく、そんな、緊張感と虚脱感を十二分に髣髴させてくれる役柄である。また、シャー子演じる女刑事エミリーが、洞察力の鋭いハンクの言動・行動に刺激され、徐々に迫力が出てくるところも演出もさることながら全体の構成を踏まえた演技力には脱帽。「スタンド・アップ」に匹敵する彼女の名演を鑑賞できる。「クラッシュ」に関しては、テーマは良いものの映画作品としての構成が甘かったと評した筆者であるが、この作品は全く逆。テーマがこなし切れていない部分を全体の構成力で補っていて、それは、前述した役者の演技だけでなく、動画の効果だったり、写真や、兵士の台詞など細かい点にも現れている。宅配便の一件といい、米国旗の流れといい、そしてなんといっても、旧約聖書を引き合いに出した主題(何故、邦題は当初の予定通り「エラの谷」ではなかったのか? 勿論この邦題の「とき」という言葉に重きをおきたい気持ちはわかるが、この作品は直訳邦題で良かったので残念)に、母親としての女刑事が皮肉をいうオチまで、とにかく構成は素晴らしい。また構成が見事に完成されたが故に、初めて鑑賞者に理解される問題提起という部分では、最早映画作品の枠をも超えている。最近は物語や全体構成が伴わない中で、問題提起ばかりされる、ある種ドキュメントに近い作品が多い中、「事実に基づいた着想」というエクスキューズも生きた内容であった。

残念ながら、音楽や美術などの部分と、撮影や編集にもう少し斬新な点がひとつ欠けていたために最高ランクには到達しないが、この作品も戦争映画では極めて評価の高いランクになるA作品である。拡大系ではないが、是非、時間を作ってシアターで鑑賞して欲しい。


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by turtoone | 2008-07-12 22:22 | 映画(か行)