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暫く療養と入院、更に手術をしまして映画ブログは更新を怠っておりました。作品は鑑賞してますので、徐々に復帰させていただきます。今後共、よろしくおねがいします。


by turtoone
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ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

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久しぶりにハリウッドらしい、そして骨太で、ストーリーをはじめ、監督や脚本、役者は勿論のこと、音楽や美術、効果、編集に至るまですべてにおいて「気合の入った」作品を観せて貰った。総合芸術としての「映画」という名に相応しい、そしてまた、余韻を残さないラストなのに、作品の中に沢山の問題提起をしてくれた鑑賞であった。

公開前からアメリカンドリームの闇の部分という触れ込みがあったが、この作品の時代背景は、西部開拓時代が終焉し、アメリカ人は更なるフロンティアを海外に向けていかなくてはならない時代であった。最初にこの物語の主人公ダニエル・プレインビュー(ダニエル・デイ=ルイス)が金を採掘している1898年は、アメリカがハワイ王国を半ばなし崩し的に併合し、その領土を太平洋まで拡大した年と同じである。その後、スペイン領キューバの反スペイン暴動に便乗し、スペインとの間で米西戦争を起こしたが、この開戦には、当時普及していた新聞が、国民の反スペイン感情を煽動するという大きな役割を果たした。新聞によって煽動された大衆が戦争を要求した最初の例となり、ご存知のように、以降米国政府はこの情報戦略を積極的に利用した。米西戦争に勝利、中米を経済植民地とし、また太平洋ではプエルトリコやフィリピン、グアム島などを領有した。さらに、日本と西欧によって中国の分割が進んでることに目をつけ、1900年に清の門戸開放・機会平等・領土保全の三原則を提唱し、中国市場への進出を狙った。更にその後1905年に日露戦争の調停役を申し出るなど、国際的な立場向上を目指した。日露戦争に日本が勝利を収めたことから、西欧諸国の矛先は日本に向けられたが、米国も同様であり、「オレンジ計画」と呼ばれる対日戦争計画を進めることになる。そして、この時代に呼応するように、石油や電力を中心とした第二次産業革命が起こり、豊富な石油資源を持ったアメリカの工業力は英国を追い抜いて世界一となった。そして強力な企業連合体や独占体が成長し、エクセル、カーネギー、モルガン、ロックフェラーは一代で巨大企業にのし上がり、巨万の富を得た。その後のアメリカ経済は彼ら財閥によって動かされることとなるが、これがこの作品の「表側の時代背景」である。また石油採掘に限って言えば、ピークの時代はもう少し以前の1860~80年代で、機械堀り油井の発明が採掘に拍車をかけ、ロックフェラーがクリープランドで成功しスタンダード石油の設立が最高のアメリカン・ドリームであろう。ダニエルの時代は少し遅れている中で映画に出てくる油井も当時のものにしては少し旧式である。

そしてこの作品で筆者が最も注目した点は、この時代の「教会と布教」であり、特に「聖霊派教会」のアメリカにおける存在である聖霊派(せいれいは)とは、キリスト教の教派のうち、三位一体(父と子と精霊)の位格のひとつである聖霊の働きを強調する教派や集団の俗称である。元来はプロテスタントのホーリネス教会から1900年頃に始まり、結果的に分岐した教派であるペンテコステ派が代表として挙げられる。時代的にも丁度この頃、1914年にアッセンブリーズ・オブ・ゴッドが設立。キリスト教プロテスタントのペンテコステ派世界最大の一派である。ここにも野心的な牧師、イーライ(ポール・ダノ)を配して、もうひとつのアメリカの闇の部分を表現している。そして、この一見すると100年前の歴史上の出来事描いているが実は、現代米社会へり風刺と提言に満ち溢れた作品である。ダニエルの持つ自立精神は、この100年間に異常なまでに合衆国が執着してきた世界一の国家権力に相当する。目的のためには手段を選ばない。また拾い子ながらわが子と育てたHWの生い立ちとHW自身の決意はこの国の過去と将来を模索している。拾い子とは、多民族を現し、だが欲望のためには子孫も顧みることはしない。また自国の意に適わないものは制裁も辞さない。世代による考えの相違は常に繰り返す。宗教観も同じである。聖霊派を題材にはしているがたまたまこの時代の象徴だっただけで、要は現体制への批判が込められている。未だ戦争に終止符を打てないブッシュは、相変わらずキリスト教を楯とした聖戦を気取っている。彼のパフォーマンスとイーライーの降臨の一体どこが違うというのだ。

ダニエル・デイ=ルイスに関しては、「ギャング・オブ・ニューヨーク」で2度めのオスカー主演男優賞(この年「G.O.N.Y」からはディカプリオも同じく主演男優の候補になっていた)を確信していたが、前回は逃がした。一時は俳優をやめて靴職人になっていたほど、自分の納得した作品にしか出演しないので有名であるが、最初の受賞である「マイ・レフト・フット」以上の演技であった。また、ポール・ダノ(2役)も期待以上だった。そして、やはり、ポール・トーマス・アンダーソンである。「パンチドランク・ラブ」以来5年振りの監督作品であったが、兎に角視点が斬新である。今作品も正統的なアメリカ映画になってしまう内容であるが、そのハリウッドにある正統性を守りつつも、例えば最初の20分は台詞らしい台詞がなかったり、音楽の使い方やラストにも象徴される奇をてらう脚本構成は、彼の斬新さと、毎回映画作品に込められた問題提起を作品内で見事に終着させていると言える。言いっぱなしの映画作品が多い中で、彼の作品ほど、誰にでも理解でき、誰にでも自分の主張を明確に伝えるという監督は、映画が物語も含めて複雑にしようという動きとは全く正反対な取り組みとして、今後も高く評価が出来るものである。エンドロールで「ロバート・アルトマン」に捧げるとあったが、アメリカの巨匠に捧げる価値のある、高レベルな作品になったことは言うまでもない。

全編で音楽をジョニー・グリーンウッド(レディオ・ヘッド)が手がける中、筆者的にはブラームスのヴァイオリン協奏曲第3楽章という、クラシックでも十指に入る個人的に大好きな曲が入っていたことも加点対象となった。 「ミュンヘン」(2006年)以来2年2ヶ月ぶり、筆者的に特A作品である。


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by turtoone | 2008-04-27 23:09 | 映画(さ行)