暫く療養と入院、更に手術をしまして映画ブログは更新を怠っておりました。作品は鑑賞してますので、徐々に復帰させていただきます。今後共、よろしくおねがいします。


by turtoone
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カポーティ

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ノンフィクション作品を如何に文学として高めて行けるかどうかは、まさに、作者の手腕でしか為しえない一大事業である。冷血という小説はその存在は知っていたが、残念ながら読んだことも、又、映画化された同名作品を観たこともない。ただ概していえば、例えば「恋に落ちたシェイクスピア」や12月公開予定の「親愛なるべートーベン」などのような作品プロモーションで、彼等の名作完成秘話的なアプローチで紹介したり、どちらかというと視覚メディアに良く出てくる一般大衆を相手に適当なコメントでお茶を濁す映画評論家(おすピーは除く)なんかも同様な事を言ったりするが、この作品に関してしては、フィリップ・シーモア・ホフマンが主役を演じていることもあり、最初からトルーマン・ガルシア・カポーティの内面をどう表現するのかが観たかったので、正直なところ「ロミジュリ」や「合唱」のような成果物を知る必要はなかった。このレビューもそういう視点で書く。

大体、小説というのはモデルがある。それをノンフィクションとして書くかそうでないかは作者の自由であるが、一般的にモデルが現存している場合は後者が多い。何故なら資料が集めやすく、創作にするエネルギーと比較すると主題をどこにおくかにもよるが、取材に費やした方が効率が良い。筆者自身が、カポーティのことを、映画という軸でいえば、名作「アラバマ物語」のモデルであることくらいしか(同物語の作者、ハーバー・リーをキャサリン・キーナーが演じている)知らないが、カポーティは察するところ、大変自尊心の強い、いや、逆にいえば著述者というのは自尊心が強くないと身が持たないと考えていたようだ。パーティのトークで必要以上に有名人との交遊をひけらかしたり、列車の車掌や友人にも見栄を張ったりしている。しかし、それらは彼自身のそれまでの生い立ちの積み重ねであり、コンプレックスから発した物だった様だが、この残虐事件の犯人と知り合い対話し、犯人がこの事件に至るのまでの人生や生活環境を知る事によって、作家として今自分がしようとしている事や、必要以上に自尊心を高めようとすることに些かの迷いが生じてくる。この辺りのカポーティの心理描写を、ホフマンはものの見事に演じていた。ホフマンが、最初このカポーティ役でオスカーを獲得したと聞いた時、自身の知っているカポーティの印象とは随分食い違っている感じであったが、それは、どうも前述の「アラバマ」のせいかも知れない。この映画作品は、エンディングまでこの自身の中の葛藤描写に尽きるように、物語の構成も完全に彼の心理描写を中心に進行していった。ひとつ間違うと危険な脚本であったにも係わらず、場面の展開が良く、だらだらしないでエンディングまで引っ張れたのは脚本と演技の見事な相乗であったといえる。やはり今年公開の「スタンド・アップ」 が何人かの俳優でこの感情を見事に繋いだのと同様、この作品はホフマンが最後までひとりで繋いだ。見事なプロの仕事である。

一方で作家が題材に振り回されるというのは、冷たい言い方をすれば失格であり、それでだかどうだか分らないが、その後カポーティは断筆してしまう。一方、彼が題材となった「アラバマ物語」は、その後、アメリカの教科書に掲載されるほどの「推薦文学」になった。人生とは何とも皮肉なものではなかろうか。この事件は現代にしてみれば、頻繁とは言いたくないが似た様なものはあり、しかも、この作品の時代と違って、精神分析や弁護士もかなりスケールアップしているから、この犯人の結末はもしかしたら違うものになったかも知れない。しかし、カポーティはもっとも近いところでこの事件と人物を究明し掘り下げた。結果、それまでにない「冷血」という文学をセンセーショナルに全米に紹介し、大勢の読者の背筋を震わせた。そして、その代償の多くを実は、カポーティ自身が最も多く背負ったのである。この彼の生い立ちからは生まれなかった「真実の良心」を恐らく良しとしたからこそ、二度と文壇には戻らなかったのであろう。

ホフマンの演技に尽きるといってしまえばそれだけなのだが、お薦めの作品であることは間違いない。


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by turtoone | 2006-11-04 19:05 | 映画(か行)