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暫く療養と入院、更に手術をしまして映画ブログは更新を怠っておりました。作品は鑑賞してますので、徐々に復帰させていただきます。今後共、よろしくおねがいします。


by turtoone
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羊たちの沈黙 ~My Collection~

羊たちの沈黙 ~My Collection~_b0046687_1058333.jpgサイコサスペンスという分野の作品をそれまで置かれていた地位から一気に芸術的に高い次元迄引き上げたという事に関して言えば記念すべき且つ、価値のある作品である。が、敢えて筆者的な評価で申し述べれば、以上の事は工作された結果論に過ぎない。まず、この作品を前述の領域迄引き上げた要素の一つにオスカー総舐めという事実がある。しかし、正直これにはクエッションマークである。この年の最高傑作は「JFK」だったと信じて疑わない。作品の構成から、その意図、時代への問題提起、斬新性、又撮影や美術に至までほとんどの点でヒツジを上回っている。敢えてヒツジが上回っていると言えば、アンソニーホプキンスの演技力と、ジョディーというヒロインの存在くらい。後述するがカメラワークに新しい可能性を示唆してくれたものの、その点でいえばJFKの実写とそれに絡めた撮影の連携を試みた編集技術と、同時にその構成を導き想定した脚本には到底適わない。逆の言い方をすれば、これだけの名作がオスカーに蹴られたのはそれだけの理由があり、やはり、アンタッチャブルな暗殺事件の全容をハリウッドの問題児がメガホンを取ったという理由以外に考えられない。かといって、主要部門をすべて受賞させてしまうというのもかなりやりすぎで、こうなると悪意の見せしめ以外の何者でもない。要するにこの類はもう作るのではないぞという警告だったのだと思う。しかし、この試みならぬ、オスカー的良識は逆効果となり、メディアは、この作品の出来如何に係わりなくJFKとその事件の全容究明を競ったのである。これだったら、作品の芸術性のみを高い評価で帰着させて、オスカー作という厚いオブラートに包んでしまった方が得策だったかもしれない。

この物語はトマス・ハリスの同名ベストセラーを完全映画化したものであるが、1960年代より全米で出没し始めた、連続殺人鬼の実話がモチーフとなっている。作品の構成としては、主役であるドクター・レクターをストーリーテイラー的存在にしながらも、その観察者として、ジョディー・フォスターという、ミスアメリカ的存在を配しているところで、鑑賞者の目線を彼女の目線に合一させた脚本は評価したい。しかし、このジョディーの目線に合わせた演出効果の部分を全編にわたって引っ張ってしまったことで、中盤以降に盛り上がりの欠ける作品になってしまった事も事実である。さらに言えば、筆者がよく指摘する、主題とクライマックスのズレが生じた作品は観ているものを戸惑わせる代表例である。この作品のポイントは、タイトルにもあるように、羊にある。幼少時代のトラウマをドクター・レクターが問診する。本来は事件解決の重要証言を取りに来た実習助手を、いつのまにか彼の患者にしてしまいカウンセリングを受けさせている。この段階から、ジョディーに感情移入している鑑賞者も同時に、医者から患者に立場が逆転するように展開していくという流れであり、これはこれで中々面白い手法である。しかし、同時に、彼女のFBI実習生という立場を強調するが為に必要以上に他人、特に「男の目線」を意識させるカメラワークが多すぎる。このカメラワークの斬新な発想自体は悪いものでは無いが、残念ながらこの作品には合致しなかった。つまり、その度毎にまた、実習生クラリスに戻され、更に、ドクター・へクターの前では患者に戻されるという連続があるために、折角、一番ポイントになっている「ヒツジの告白」の部分に焦点を絞りきれず、単なる連続殺人事件を解決する勇敢な女性FBI実習生の話になってしまったのである。これでは、ドクター・レクターをアンソニー・ホプキンスという稀代の名優を使って出演させた意味が何も無い。

残念ながら、この映画作品は、全米を震撼させた(と言われているが、興行収入も、公開日数も然程ではなかった筈である。オスカーを取らなければ、これほど話題にならなかった)というが、原作に見られる緊張感や期待感は、映像では確認することが出来なかった。実は、それを一番分かっていたのが、監督のジョナサン・デミと、ヒロインのジョディだったのではないかと思うのは、現に、このシリーズの続編「ハンニバル」、「レッド・ドラゴン」の何れにも関与していない。特に、ジョディに関しては「パニック・ルーム」という超駄作に「この作品には是が否でも出なくてはいけないと思った・・・」というコメントを残し、同時期に撮影を予定していた「ハンニバル」の出演を断った。彼女が出ていたら、このシリーズも又、見方が違ったのかも知れない。

そういえば、そのジョディ・フォスター自身も、1988年の「告発の行方」に続いて、2度目の主演女優賞(この作品は、「カッコーの巣の上で」以来のオスカー主要五冠に輝いた)と、女優として一番波にのっていた時代だったのかも知れない。序ながら、このヒロイン役には最初、ミシェル・ファイファーが第一候補だった。当時「恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」で注目され上昇気流にあった彼女は、この脚本の残虐さに、出演を辞退したが、ジョディは自らこの役をかって出た。しかし、残念ながら、この役どころをこなすには、エール大学卒の才媛にはプライドが高過ぎたたのかも知れない。余りにも有名なレーガン大統領暗殺未遂事件の関連等もあり、色々な意味で話題の出演となったが、個人的にはこの役はミシェルの演技を見たかったというのが本音である。

この年のオスカーには、アニメで初めて「美女と野獣」もノミネートされ話題となった。結局、話題性が先攻し、選考が甘かったオスカー史上でも後世に汚点を残した年であった。


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by turtoone | 2005-11-23 11:14 | 映画(は行)