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暫く療養と入院、更に手術をしまして映画ブログは更新を怠っておりました。作品は鑑賞してますので、徐々に復帰させていただきます。今後共、よろしくおねがいします。


by turtoone
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シッピング・ニュース ~My Collection~

シッピング・ニュース ~My Collection~_b0046687_1223665.jpg8月のお盆時期にラッセ・ハルストレム監督ミニ特集を連載したが、それをみてくれた友人からDVDの返却があった。凡そ半年近く貸していたので延滞料だけで何枚DVDが買えると思うかと言ったら、別の同監督の作品を持ってかれた。「オマエの記事読んだら観たくなったよ」だって・・・。持つべものは友達って本当かねぇ。しかし、この返却はうれしい。何しろこの監督を語るのに「シッピング・ニュース」は欠かせない。久しぶりに観たがその筆者の主張は変わらない。また、この作品は現時点ではラッセ監督の集大成であることも確認した。

作品は、大きく三つのテーマを持っている。「決別」と「再生」と「共生」である。しかし、これが順序良く語られている訳ではない。導入は「再生」である。子供時代に受けた恐怖感からある男が自分を取り戻す「再生」から始まる。しかしそれらのことで明らかになってい自分のルーツとの「決別」がある。これは単に自分自身がその歴史から決別するだけでなく、過去を引きずらないというテーマが作品全体の土台を作っている。そして、その「決別」と大きくリンクしているのが、大自然との「共生」である。個人を作るのは時代、時代をつくるのは自然という集合帯の構成の中に、この物語は悠然と語られていく。

ラッセ監督の作品に共通することは、「悪役」を作らないことである。それだけでなく、「悪役」を作らないのにこれだけ感動的な作品を作ることができる妙技である。物語というのは、単純に作者が表現したいラインを「正」とすれば、その点対称の部分を「誤(悪)」を作ることによって正が強調される。文学は自分のペースでその展開を楽しめるものであるが、映画には鑑賞者のペースは様々であるから、論点を明確にするには、作者のラインから一番遠いもの、つまり、「誤」や「悪」を作ることが手っ取り早く、同時にわかりやすい。良く、原作よりも、映画の方が「悪役」がにくにくしく思ってしまうのはそういう手法が上手いからである。しかし、この監督は敢えてそれを作らない。最近分かったことは、「作らない」のでなく、この監督には最初からそういう考えがないということだ。「人柄」と言ってしまえばそうなのかも知れないが、共演者の全てが口を揃えて言うように、本当に「心の暖かい人」なのだと思う。そういえば、メイキングなどの出演映像を見ていても、「巨匠」という感じが全くしない、素朴な人の様に映る。

もうひとつ必ず彼が大きなテーマにしているのが「場所」。特に人間の「居場所」である。「サイダー・ハウス・ルール」「ギルバート・グレイプ」「ショコラ」「マイライフ・アズ・ア・ドック」と、彼の代表作には、全て「居場所」が大きなテーマになっている。それぞれの作品でこの「居場所」に関する扱いが多少違うが、この作品と「ギルバート・グレイプ」はクライマックス部分での居場所の扱いは大変似ている。しかし一方で共通しているのは、映画の結末はひとつの通過点であり、出演者の居場所が着地している訳ではない。人生と同じ様に常に動きがあり、逆に言えば、どんな人間にも、必ず居場所があり、更に言えばその居場所は何処にあるというものでは無く、ここも、そこも、あそこも自分がそう思ったところがその人間の居場所なのであるということを力説している。「シッピング・ニュース」では、それを「対自然」から、「対歴史」から、そして幼少時代に植えついた恐怖感からの再生という「対自分」という3つの側面から見事に描いていることから、これらの作品の集大成という見方もできる。

ストーリーが抜群という作品ではない。にも係わらずこの中で語られている沢山の重要な事、ケビン・スペイシー、ジュディ・デンチを初めとした素晴らしい演技者の共演、美術、音楽、撮影はどれも素晴らしい。映画ファンであれば「色々な見方」のできる作品であり、同時に何時でも見たいときに手元に置いておくという、是非、ライブラリーに置いておきたい一枚である。冒頭に書いた様に筆者は半年も友人の手元に置き放しであったが。序でながら、まだ「マイライフ~」が返却されていない!! Tよ、序のときで良いから返却してくれぇ~。


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by turtoone | 2005-09-17 12:26 | 映画(さ行)