暫く療養と入院、更に手術をしまして映画ブログは更新を怠っておりました。作品は鑑賞してますので、徐々に復帰させていただきます。今後共、よろしくおねがいします。


by turtoone
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グラン・トリノ

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このブログでも度々書いているように、筆者はイーストウッド監督作品に、「人間の尊厳」という観点をもって鑑賞している。特に「ミリオンダラー・ベイビー」以降、それは顕著であり、「父親たちの星条旗」で決定的になった。映画という総合芸術の世界で、俳優として、更には監督として一時代を築いたこのハリウッドの至宝とも言えるべく存在がその晩年に当っても、作品に作品を重ね言いたかったことは、本作品を見てもやはり筆者の受け取り方は変わりなく、それは「人間の尊厳」なのであった。

アメリカが変わった。そして、それは最初は主人公の目には大変愚かなことであるという描き方をしているが、多分、唯一の理解者であったであろう妻を亡くしてから、彼自身の中で彼の人生が何だったかを再確認していく。これはアメリカに関わらず、どんな人間にのもあることであり、同時に失って気づくものというのは、失ったもの自体でなく、自身に芽生えて来るものというのが大きいし、そりことに年齢差はない。ただ、彼はキリスト教徒でありながら教会に懺悔にも行かないし、半世紀以上前の戦争に対しての後悔を長いこと背負っていたが、それは自身がひとりで背負っていたのではなく、亡くした連れ合いが共に背負っていたということを牧師の忠言によって始めて気づかされる。その後、彼がこの半世紀前から全く変わり果てたアメリカの社会というものをひとつひとつ受け入れていく中で、隣人タオとその一家が大きく彼の世界と生活の中に入り込んで来る。「老兵は死なず ただ消え去るのみ」は、かのダグラス・マッカーサーの名言であるが、イーストウッド扮するウォルト・コワルスキーには、そういう人生の終着点を探していたのも事実。だから、彼はこれまでの人生では唯一得られなかった「友人」という存在をタオに求める。社会が変遷していく中で、人間というのがそれまでの経験だけで生きられなくなっているのは、いつの世にもあることであり、特に年老いた人間は時代の適応が難しい。社会は「老人は社会の宝」だとか「老人の知恵を生かす」だとか調子の良い文句を並び立てるが、本質は社会の弱者であることに変わりなく、また、その弱者は弱者の儘に放っておくということ以外に解決方法はない。何故ならどんなに美辞麗句を並べたところで全ての老人が快適に過ごせる空間など、この地球上には人類が誕生する前から存在しないのであるから。

しかし、だからといって人間という「尊厳のある」存在は決して卑下したり、諦めたりしてはいけないと言っている。「ミリオンダラー・ベイビー」以降、この「尊厳」は常に作品の主人公自身に問いかけて来たテーマであったが、今回は、主人公だけでなく、尊厳を忘れてはいけないということを物語の中で他の役柄に対して問いかけ促し、更に、鑑賞者にも強く訴えかけてきた。過去の作品以上にメッセージ性の強い作品になった。そして最も大事なことは、アメリカは昔も今も合衆国であること。アメリカが建国したときも、ヨーロッパをはじめ全世界から開拓の志の高いものが集まって出来た国であること。時を経て、現代はその構成比率が少しずつ変わってきているかもしれないが、それでもアメリカには世界中から人材と金が集まるということ。後者はどうでも良いが、「自由」を求める精神は変わることなく、そして、それをお互いに認め合っていかない限り、アメリカは国家でなく、一部の人間に支配されてしまう「機能」で終わってしまうという警告も含まれた「アメリカ人としての尊厳の回復」が主題である。

フォード・グラントリノ・スポーツは、そんなアメリカの象徴である。この名車の名前を聞くと(クルマファンでなく)エンタメファンなら、スタスキー&ハッチを思い出すと思うが、あれも名車だが1976年製。本作品では1972年のヴィンテージカーである。主人公が半世紀以上勤めていた会社の最高傑作は、自分の息子と同じであるが、一方でその父を理解しない息子たちの隠れ蓑としての作品の大きな役割にもなっている。平均的なアメリカ家庭の中にも「父親の尊厳」を失わせてしまった元凶は一体なんだったのか。一意見としてそれは「朝鮮戦争」に始まるアメリカの局地戦争への介入なんだと言っている。そして、彼は、この国家を牽引してくれると思われる「新しい世代」にそれを継承する。まさに、黒人大統領が就任したタイミングにも相応しい映画作品化なのであろう。

素晴らしい作品である。しかし、このところ(昨年の年頭もそうだったが)良い作品が続いている。筆者の採点が甘いのでなく、映画の題材になってしまうほど、現代は問題が山積しているとも言えないか。そして、最後にもう一言、この作品をオスカーに選ぶという妥協をしなかった今年のオスカーの決断には、この秀作と共に大きな拍手を贈りたい。


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by turtoone | 2009-04-26 23:13 | 映画(か行)